〈たなか(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)× 一条ヒカル〉「偏見はダサい」と言える世界に。肩書きを脱ぎ捨て、新たな世界を泳ぎ続ける理由
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歌舞伎町でホストとして名を馳せた、一条ヒカルさんの仕事の流儀。そのエッセンスは、ホスト業界にしか通用しないものなのでしょうか。活躍中のビジネスパーソンとの対談を通じて、他業界との共通項を探るこの企画。第6回目のゲストは、『ぼくのりりっくのぼうよみ』として歌手活動をされていた、たなかさんです。
今回の対談が実現したのは2019年の4月にたなかさんが一条さんのお店に体験入店したことがきっかけで、そのステージとなったCLUB CLASSYにて公開取材が行われました。歌手引退以降、ジャンルを問わずにさまざまなことに挑戦しているたなかさん。なぜ突然ホストを体験しようと思ったのか? 肩書きに固執せずに挑戦していく理由を聞きました。
肩書きを脱ぎ捨てて、何にでも挑戦することの意味
ヒカルさん:
初めてお会いした時、僕がホストだと知った時から興味津々でしたよね。
たなかさん:
そうなんです。単純にかっこいいなって思っていて、やってみたかったんですよね。
ヒカルさん:
僕にも「やってみたいです!」っておっしゃってくださったのでぜひ、って感じだったんですけど、まさか著名人の方がホストを体験するなんて思わないじゃないですか。なのにマジで来た(笑)。
たなかさん:
マジで行きましたね(笑)。
ファンの方はびっくりされたんじゃないですか?
たなかさん:
そうかもしれません。僕がぼくりりを辞めて以降やってるのは、“ぼくりりだった人間が、これをやってるから面白い”っていう一発ギャグの連続なんですよ。
ヒカルさん:
一発ギャグの規模がめちゃくちゃデカくないですか?(笑)
たなかさん:
でっかくしないと死んでしまうので。でも、この流れももって1年ぐらいだろうなって思ってます。あんまり長くやっていると、”まだぼくりりの話してるぞこいつ!”みたいになるじゃないですか。
ヒカルさん:
確かに(笑)。数ある仕事の中からホストを選んだのはどうしてですか?
たなかさん:
面白そうだと感じたものは全部やろうと思っているんです。みんなの中にある無意識の思い込みを破壊するのがすごく面白いんですよね。「ぼくりりをやめたからといって、まさかホストをやることはないだろう」っていう。
ヒカルさん:
めちゃくちゃかっこいいですね。
たなかさん:
あとは、「偏見を持つことそのものがダサい行為だよね」と皆が思う文化を作りたいっていうのがすごくあります。今回は、その一環としてホストをやらせていただいた感じで。
ヒカルさんからすると、たなかさんのように他業界の第一線で活躍されてる方を迎えて、感じた変化はありますか?
ヒカルさん:
僕らからしたら「ありがとうございます」の一言ですよ。たなかさん目当てで来店されたお客様は、みんなホストに来るのが初めての方ばかりだったんです。「ホスト業界は見たくなかったけど、たなかくんが働くのは気になる」という方ばかりで。
たなかさん:
確かに、そうでしたね。
ヒカルさん:
でもそんな方々が、「ホストへの見方が変わりました」とか「こんな楽しかったんだ」と言ってくださって。その後Twitterでもフォローや応援の声も頂いていて、やっぱりすごく嬉しかったですね。
ヒカルさんが目指す「ホスト業界のイメージを変える」ことに、つながっていく感じですよね。
ヒカルさん:
そうですね。僕らはホストってだけで、どうしても0.1の悪いことが200で見られるんですよ。
たなかさん:
それが無意識の思い込みですよね。
ヒカルさん:
だからうちのホストクラブの子たちには、信号を絶対守るっていう本当に小さいことから正しい行動をさせ続けて、コンプライアンスをゴリゴリに守らせています。
たなかさん:
なるほど。「ホストのイメージを変える、歌舞伎町を変える」という大きな旗を掲げても、最初は小さなことからなんですね。そういうことに、ずっとストイックに向き合っているのがすごくかっこいいなと思いました。
「ホストなのに」というギャップが、応援につながる
たなかさんからみたホストクラブってどんな印象でしたか?
たなかさん:
僕が音楽をやっていた時は、ライブの2時間でお客さんから5000円もらう仕組みだったんです。それに対して、ホストクラブって「1回で100万円とか払う人がいるのって、すごくない?」と思って。額だけの話じゃないとは思いますけど。
ヒカルさん:
そうなんです。勘違いされやすいですけど、外見とか運だけではそううまくはいかないんですよ。ましてや僕のお店に入ってきてくれる子たちは、何も武器を持っていない初心者もすごく多い。その子たちに武器を持たせるのが僕らの仕事で。そうじゃないと、女性も100万円なんか絶対に使ってくれないから。
たなかさん:
指名料金の3000円ですら、最初は難しいですよね。
ヒカルさん:
そう。だからその武器を入れ込むところから始めるんです。
たなかさん:
その武器っていうのは、具体的にどんなものですか?
ヒカルさん:
ホストの武器っていうと、色恋で女の子を騙してお金をもらっているって思われがちなんです。でも突然、「むっちゃ好きなんだよね。俺のためにお金使ってよ!」って言われてお金使います?
たなかさん:
いや、ちょっと難しいですね。
ヒカルさん:
そうなんですよ。それよりも「ホストなのに一生懸命真面目にやっている」っていうギャップが大事で。来てくれたお客様を全力で笑わせて楽しませてる子の方が早く人気が出て、指名を頂けるようになるんです。
たなかさん:
「恋として好き」とか「付き合いたい」っていうよりも「この人を応援したい!」みたいな感じですよね。
ヒカルさん:
そうそう。group BJでは「この店だったら応援してあげよう」とか、「ホストは今まで嫌いだったけど、あなただから応援してあげよう」ってなって、通ってくださることが多いです。
信頼とか期待を含めた人と人との関係性になるんですね。 従業員同士でお客様を奪い合うみたいなことはないんですか?
ヒカルさん:
正直、指名を頂く段階まではホスト同士の争いです。だけど、指名が決まったらその人のことを全員でバックアップして、お店全体を楽しんでもらう方向に切り変わるんですよね。
たなかさん:
へええ。
ヒカルさん:
だから、自分の卓・ヘルプの卓関係なく、お客様を大事にしている子がやっぱり売れますね。
たなかさん:
なるほど。
ヒカルさん:
その点で言うと、たなかさんはホストの才能めちゃくちゃあるなって思ってます。複数のお客様がいる中で、「この回り方天才かよ!」と思うほど動きがスムーズだし、たなかさんもお客様もめちゃくちゃ楽しそうなんです。その時、その一瞬を楽しめる人が感動を生み出せる。だから、一緒に仕事していてすごく楽しかったです。
初回の体験入店の時にラストソングを獲得されたんですよね?
たなかさん:
光栄なことに、頂きました。僕としては、初めてだったから取れたのかなっていうのもあるんですけど。
ヒカルさん:
そんなことはないですよ。普通は絶対取れないです。
たなかさん:
ただ、1回目は売り上げ1位を取れたんですけど、2回目は普通に負けてしまったんです。ラストソングも歌えず、涙を飲んだ思い出があります。
ヒカルさん:
この店(CLUB CLASSY)って、オープンしてまだ三ヶ月(対談当時) で、スタッフ全員未経験者なんです。たなかくんに来てもらった時は、まだスタープレイヤーはいなかった時期ですね。
たなかさん:
確かに、1回目はみんな入ったばかりだったんですよね。それが2回目になったら、みんな手強かった。
ヒカルさん:
毎日、鍛えていますからね(笑)。なぜかって、来てくださったお客様全員に「楽しかった」と思って帰ってほしいんです。だから、日々の営業やイベントを1つのショーとして考えて取り組んでいるんです。
たなかさん:
思ったんですけど、ホストクラブってアイドルの総選挙みたいなところがありますよね。ホストを応援する人たちがいて、その応援を糧にホスト同士が戦う。そして順位が決まるっていうのが、すごく面白くて。
ヒカルさん:
確かに、毎日が総選挙みたいな感じですね。未経験者を集めて僕が仕込んでいくという方法を取っているから、余計に成長が見えやすいのかもしれないですね。この街では異端児と言われるようなやり方ですけど、だから応援してくださるお客様が多いのかもしれません。
ブランドを作るためには、好きなもので突き抜けろ
たなかさんは今、いろんなことにチャレンジされていますが、どういう風に自分自身をブランディングしているんですか?
たなかさん:
今は「ブランディングを一切しないブランディング」をしています。本質的にブランディングしないと困っちゃう局面に来るまで、そういうのは止めておこうかなと。好き勝手に生きるっていうのが大事かなと思っています。
ヒカルさん:
良いですね。そこ気にしちゃう男の子って多いですよね。キャラ作りに困っている子が周りにも多くて。
たなかさん:
人間っていろんな面があるじゃないですか。ある種サイコロみたいにいくつも面があって、一つの面の裏には全く違う性格があったり。だからブランディングっていうのはたくさん面があるうちの1つにフォーカスして、そこにより光を当てて大きくしていくものかなって思ってます。
ブランディングのためには「好きな面で突き抜ける」っていうことが大事なんでしょうか。
ヒカルさん:
すごく大事だと思います。好きじゃないことでブランディングするのって、相当メンタル強くないと無理じゃないですか。
たなかさん:
そうですね。たぶん今、好きな仕事に就けてる人って少ないと思うんですよね。
ヒカルさん:
確かに。僕は好きなことをやってきちゃった人だと思ってるんです。でも元々は好きだったはずなのに、売れなくて好きじゃなくなる時もあるじゃないですか。そういうのって、メンタル的にタフじゃないと厳しいですよね。
たなかさん:
確かに。
ヒカルさん:
そういうのを乗り越えるというのも、1つのブランディングになると思います。
ちなみにホストに復帰するご予定は…?
たなかさん:
またやりたいです!2回目は負けちゃったので。
ヒカルさん:
ぜひ!
たなかさん:
物語とか映画とかってそういう伏線あるじゃないですか? 最初に強いところを見せて、敵が出てきて負けて、だけどパワーアップして最後に敵を倒してすごい! みたいな起承転結の物語。
ヒカルさん:
うん、うん。
たなかさん:
今の僕の状況に合致してると思うんです。今はどん底だから、もうはい上がるしかなくて、その伏線回収をいつにしようかなって思っているところです。
ヒカルさん:
ちなみに音楽活動の方は?
たなかさん:
もう1回やりたいなっていう気持ちもすごくあります。
ヒカルさん:
おお!
たなかさん:
ちゃんとこう、勝ちたい。今は息を止めて水をいっぱいに溜めた桶に潜っているというか、ちょっと充電中みたいな感じで。
ヒカルさん:
21歳の若さで。めちゃくちゃすごい体験されてますからね。いろいろ見てるんだなって感じます。洞察力とか、観察力とかに長けている。
たなかさん:
光栄です。意図的に「こういうアーティストです」って紹介しやすい形に自分を落とし込むのは、正直苦痛で。ただそれは必要なことなので、またそれをやる覚悟ができたら、音楽やろうかなと思っています。
たなかさんは先日ここCLUB CLASSYで体験入店をされていましたが、なぜホストをやってみようと思われたのでしょうか。