〈高木新平×一条ヒカル〉レッテルは自ら貼られにいって個性を磨け|後編|
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歌舞伎町で名を馳せた一条ヒカルさんがホストで学んだ仕事の流儀は、他のビジネスにも通ずるのか? 活躍中のビジネスパーソンと他のビジネスに活かせる法則を対談形式で見つけていくシリーズ。第一回目はNEWPEACE代表の高木新平さんです。
前編では、ホストという一見特殊に見える仕事につまったマネジメント術について、主に伺いました。後編では、現在12店舗を持つまでに成長したgroup BJの戦略に学ぶ、弱者がとるべき戦略と自分という商品を売るために必要な個性の磨き方についてお聞きしました。
弱者がとるべき戦略とは?
ヒカルさん:
一般的にはすでに売上を持ったプレイヤーを引き抜き、売上を上げるお店が多い中、うちでは未経験者からスタープレイヤーを育てることにこだわっています。引き抜きは一時期売上が増えたとしても、2~3年後には解体しているケースが多い。
その理由は、移籍者が「自分のおかげだ」と天狗になってしまうせいで、店の空気が悪くなっていくこと。うちではどんなスタープレイヤーに対しても、ルールは変えません。そのマネジメントによって、店の雰囲気は良いまま売上が増えていっているんです。
高木さん:
すごいですよね。巨大な組織が既にある中、小規模でも新しい個を立たせる戦略で勝ち切ることができる良い事例ですよね。ただ、目新しさがなくなるとすぐ飽きられてしまうので、弱者の戦略はそこからが勝負だと思います。そこで大切になってくるのが、社会にコミュニケーションしていくことだと思う。
ヒカルさん:
社会にコミュニケーションってどういうことですか?
高木さん:
例えば、僕が仲良いOCEAN TOKYOという美容室に高木(琢也)という美容師がいるんですけど、そいつと一緒にやろうと思ってるのが、学校につけていくカツラを作ろうという企画で。
学校にいる時間って24時間分の8くらいじゃないですか。学校の時間だけカツラを被って、他の時間は自分の好きな髪色や髪型でいられるという企画なんです。これをやったら議論が起きると思う。枠から飛び出て価値観をぶつけにいくと議論が起こって注目が集まり、応援者が増えていく。それをヒカルさんは自然にできている。すごいと思います。
ヒカルさん:
そんな風に見てくださってるなんて、本当にうれしいです。
人生のビジョンはいらない。シンプルに売れたいでOK。
今はビジョンを持てない人も多いと思うのですが、どう見つければいいのでしょうか?
ヒカルさん:
シンプルに「売れたい」でいいと思います。「有名になりたい」・「評価されたい」とかでもいいじゃないですか。それをやりたいこととして設定して、そのために何をするかをアドバイスした方が前に進める。迷って足が止まるくらいなら、シンプルに決めて動く方が確実に前に進めるし、結果も出ます。
高木さん:
なるほど、確かに。学生さんと会うとよく「自分らしさや人生のビジョンを見つけなきゃと思うけど、見つからないんです。どうしたらいいですか?」と聞かれる事が多いんですよね。
ヒカルさん:
学生ならなおさらですよね。立派なことを掲げないといけないと思うのかもしれませんが、シンプルな目標の方が、例えブレたとしても軌道修正がしやすいんですよ。「やりたいことが見つからない」という質問には、やれていることがないだけと指摘してあげればいいので。
高木さん:
「やりたいことがない」と言い出すのは、なんででしょうね?
ヒカルさん:
売れていない現実を見ていないか「向いてない」とスネている状態だと思います。「向いていないと諦める前に、この1ヶ月本当に120%でやったの?」という話だと思っていて。僕はそういう時「僕が諦めていないのに、なんで君は勝手に諦めているの?僕から見たら、やれることはたくさんあるのに」と伝えます。
高木さん:
それくらいシンプルに「売れる」という目標を置く方が、わかりやすくて良いですね! ビジョンなんてそんな簡単に決まらないし。
ヒカルさん:
結果が出ないのは「これやる意味あんの?」とブレるからです。でもビジョンを信じていたら、例え今回うまくいかなかったとしても後悔にはならない。「次に活きる」と、自分の中で転換できると思います。
レッテルは貼られにいって個性を磨け。
高木さん:
「ビジョンを決めて走る」ということで言うと、まさに経営者も同じだと思うんです。実は経営者って、起業したくて起業した人より、大企業の環境が合わずに辞めちゃってやむを得ず事故的に起業した人も多いんですよ。
大企業から追放されたというレッテルも、自分でチャンスに変換する。それで努力して本当に成功に変えるんです。レッテルを恥ずかしがって自己処理しちゃうと、ただの事故で終わっちゃう。
ヒカルさん:
確かにそうですね。レッテルを武器に変換していくマネジメントは、僕もよくやっています。
高木さん:
武器といえば、一条さんがスタッフの髪色を変えさせる内容の記事を読んで、めちゃくちゃ共感したんです。広告代理店を辞めた時、よく一緒にいた家入さんとなぜか「平成の金さん銀さんになろう」って決めたんです(笑)。でも美容院に家入さんが来なくて、僕だけ金髪になった(笑)。
でも、金髪にして自分が異質な存在になったことで、とるべき態度がクリアになったと感じました。そういう装置として髪を使うのも、レッテルを貼られにいくのと同じだと思います。
ヒカルさん:
まさにそうだと思います。
高木さん:
優秀な学生やビジネスパーソンほど、そういう個性やコンプレックスのような「何か」を欲しがってますよね。それこそさっきの悩んでた学生は、レッテルを貼られにいったらいいと思うんです。
優秀さは永遠に上がいるから競争が終わらないし、他に飛び抜けた個性はなかなか見つからない。でもレッテルを貼られにいくと、レッテルがついた瞬間に自分の設定が変わって、そこから個性が生まれていくと思います。
ヒカルさん:
そうですね。ホストもレッテルの一つなので、急に自分への態度が変わってヘコむ子もいます。その時も、同じことを言いますね。「レッテルを貼られてからの逆転劇の方が面白いじゃん! 誰もが共感できるシンデレラストーリーの主人公になれるって、おいしいよ!」と。
高木さん:
まさにそうですよね。
自分という商品が提供できる“価値の言語化”が必要。
レッテルは武器になる。未経験から1億円プレイヤーをつくるのは簡単ではないですが、そういう個性を見つけて伸ばしていくことがコツなのでしょうか。
ヒカルさん:
1億円プレイヤーになるためには、自分という商品が売れ続ける状態をつくらなければなりません。それには自分が提供できる価値の言語化が必要です。一回の接客で多額のお金を受け取る仕事なので、これができていないと「こんなにお金を払ってもらっていいのか」と罪悪感を抱いてしまうこともあるんです。
僕はそんな時「100万円のバッグに負けてんの? 君は」という言葉をかけます。お金を使ってくださったお客様に対して、その分の対価をお返しできる自信がなければ、ホストの仕事はできない。
高木さん:
まさにそうですね。僕のやっているVISIONINGも、自分の時間を売って経営者のビジョンを作り、それをどうやって世の中に出していくかを決めるんです。「この社会、この時代になぜこの人がいなければいけないのか」を言語や映像にすることで、究極の自己肯定をする仕事。だから、ホストの仕事と共通するところがあるなと思いました。
僕も一行の言葉で、数百万円をいただくこともあります。その度に「その価値あるの?」という疑問が浮かんでいてはいけない。言葉としては一行だけど、その言葉はこれから先、何千万から何億円の意思決定をする柱になる。それがわかった上で仕事をすることが、重要なんですよね。
今は選択肢が広がったことによって、生き方に迷う人も増えました。だからこそ「自分という商品をどう売るのか」というシンプルな目標がめちゃめちゃ必要だと思います。難しい目標にすると、達成できなくてもウヤムヤに出来てしまうから。そう考えると、ホストってシンプルで良い仕事ですね。
ヒカルさん:
そんな風に言っていただけるなんて…、ありがとうございます!
高木さん:
一回僕もホスト体験したいな。肩書きやこれまで積み上げてきたキャリアを全部ゼロにして、体一つで戦うっていう。相当悔しい思いをしそう(笑)。
以前、TVにコメンテーターとして出た時、嫁からめちゃくちゃボロクソに言われたんです(笑)。「視聴者ニーズも理解せず、自分のフィールドでしか戦っていない」と。その場に合った行動ができていないと気づかされた、良い経験だったんですよね。
ヒカルさん:
いつもと違う環境に身を置くことは、めちゃめちゃ素敵なことですよね。
高木さん:
ありがとうございます(笑)。ホスト体験はまっさらな初心者になれる貴重な機会だと思うので、ぜひ今度お願いしたいですね。
ヒカルさん:
ぜひ、お待ちしています(笑)。
対談を終えての感想
高木さん:
ホストは自分を売るという、シンプルを突き詰めた仕事だと改めて思いました。みんな自分らしくとか、やりたいことがないとか言っているけど、まずは「自分を売れるようになる」のが大事だと思います。ホスト自体に偏見はなかったですけど、こんなにも他の仕事に転用できる考え方がたくさんあると知れて、面白かったです。
例えば仕事で行き詰まって会社を辞めた人が寺で修行するみたいに、一回ホストで自分を磨き直すと人生を見直す機会にもなるんじゃないかなと思いました。体験したらきっとすごく発見があると思います。ありがとうございました!
ヒカルさん:
歌舞伎町のホストという仕事を長く続けてきましたが、経験と知識が浅く勉強不足だと思っていました。今回、ビジネスの第一線で活躍されている高木さんとお話して「学びがあった!」と言っていただけたことは、自信になります。
すごくありがたい言葉をたくさんいただいたので、より強く、歌舞伎町を変えるために邁進していきたいと思います。ありがとうございました!
編集後記
ホストは、一見特殊と感じる人も多い仕事。しかし、意外にも彼らがやっているのは「約束を守り続け、真剣に人に向き合うことで人間性を磨く」というシンプルで本質的なことでした。それはホストという仕事に限らず、他の仕事でも活かせることなのではと感じさせてくれます。
自分のフィールドを出て肩書きをなくし、まっさらな“個”に戻る。そんな裸一貫で戦うホストから「自分という商品を売る」エッセンスを学び、仕事に活かしてみてはいかがでしょうか。
他グループに比べ、店舗数が少なかったgroup BJ を突出させた戦略とは何だったのでしょうか?