〈Kiyoto×一条ヒカル〉「業界を変える」大きな志の中で辿り着いた、次世代の育て方|後編|

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歌舞伎町でホストとして名を馳せた、一条ヒカルさんが学んだ仕事の流儀。そのエッセンスは、ホスト業界にしか通用しないものなのでしょうか。現在活躍中のビジネスパーソンとヒカルさんの対談を通じて、他業界との共通項を探るこの企画。第二回目のゲストは都内高級レストラン 総支配人のKiyotoさんです。

前編では、飲食店とホストクラブ、それぞれのサービスの相違と共通点についてお伺いました。後編では、業界を変えるべく奮闘するお2人に、スタッフの教育論についてお聞きします。

サービスマンになるための特殊な教育

お2人はどのようにお店のスタッフの教育をしているんですか?

ヒカルさん

僕も気になります! Kiyotoさんの「瞬間で心を掴むサービス」は、どんな風にスタッフに伝えているんですか?

Kiyotoさん

サービスマンの教育はすごく特殊で、僕の場合は相手の本質を変える・考え方自体を染めるところから始めます。

ヒカルさん

わっ!それをお聞きしたいです!

Kiyotoさん

お客様の好みなどある程度の情報は前もって共有していますが、予想できないリアクションを取られることは大いにありえます。 でも根本的な人間性の部分ができていれば臨機応変に対応できるし、むしろその方がお客様の心を掴めるじゃないですか。そのために、僕の一つひとつの行動の理由をひたすら説くことに、ものすごくエネルギーをかけます。あとは直前の劇場型ミーティングで、モチベーションをあげることですね。

ヒカルさん

劇場型ミーティングですか?

Kiyotoさん

これは話すと長くなるのですが(笑)、簡単に言うと、その気にさせるんです。僕たちの仕事はモチベーション商売で、一席ごとに試合に出るような感覚なんですよね。

Kiyotoさん

1980年、東京都生まれ。
大学卒業後、都内高級レストランに入社。グループ各店での勤務後、2012年からはグループ統括支配人となる。様々な活動・人脈を通して、サービスマンのイメージを変え続けている。オンラインサロン「アソビカタサロン」主宰。2016年に『サービスマンという病』を出版。
一条ヒカル(辻貴人)さん

1987年、富山県生まれ。
歌舞伎町ホスト2万5000人のトップでgroup BJの幹部。年間最高売上1億5000万円、4年連続で年間売上1億円突破。歌舞伎町でホストクラブ3店舗を経営する経営者でもある。AbemaTVの『株式会社ニシノコンサル』に「ホストを憧れの職業にする」テーマで出演、渋谷ハロウィンでの早朝ゴミ拾いなどが話題になったホスト兼経営者。最近2本のnote記事を執筆し、合計1100スキを超える反響を得ている。(2019年7月16日現在)

ヒカルさん

試合に例えるのは、なんとなくわかる気がします。

Kiyotoさん

古い業界なので、営業中にシェフが怒鳴るようなレストランもまだあるわけですよ。でもそのすぐ後に、お客様に向かって笑えるわけがないじゃないですか。 だからどんなにやる気がなくても試合前には絶対に怒らない。褒めてその気にさせて、終わった後に怒ります(笑)。

ヒカルさん

僕も近しいですね。お客様との予定がないスタッフって、営業前すごく暗いんですよ。でもその気持ちもわかるじゃないですか。

Kiyotoさん

すごくわかりますよ。でも営業は始まってしまいますもんね。

ヒカルさん

そのまま営業に出たところで絶対にいいパフォーマンスなんてできない。僕らの業界は順位がつくしわかりやすいから、下手したら気を病んじゃうんですよね。だから「今日の営業でいかに勉強ができるかを考えよう」と、楽しめるような話題をします。

Kiyotoさん

どんなに優秀なスタッフを集めても、全員がいつも同じレベルでできるわけではない。そこをいかに同じモチベーションで向かわせるかということを、根気強く考えています。

ヒカルさん

人間教育の大切さを感じますよね。めちゃくちゃ根気いるし、下手したら何年かけても変わらないかもしれない。

Kiyotoさん

わかります。でもそれで諦めてしまってもねって話じゃないですか。辞めさせることは簡単ですもんね。

ヒカルさん

少し特殊な言い方をすると、その人の「素材」ってあるじゃないですか。それに対して、自分ができることに手を伸ばさないで腐ってしまったらもったいない。もっとできたのかなって、後悔しか残らないんですよね。

Kiyotoさん

素晴らしいリーダーですね…。

ヒカルさん

だから僕も、根気強く伝えます。何人も傷つけてきたと思いますけど、本当に嫌われていいし、「あいつウザいな」って辞めてもいいけど、「本当にお前のために言ってるからね」って。

Kiyotoさん

そうですよね、伝える側もすり減るんですよね。

ヒカルさん

本質を変えにいくって、そういうこと。それでも変わらないならもうね…ふて寝します(笑)。でも、何もやらないで否定もしたくない。僕の考え方だけが正解ではないけど、何も変えられずにうつむいて出て行く子を見ると、すごい悔しい。

Kiyotoさん

本当は自分が全部やれば話は早いんですけど、そういうことじゃないですからね。変わらないとしてもやり続ける、それが楽しさでもあるんですよね。

価値を学ぶには「投資」をしろ!

サービスを勉強したい! という人には、どのような学び方を勧めますか?

Kiyotoさん

僕はスタッフに「レストランを体験しろ」と絶対に言うんです。飲食業界は最初は給料が安いから、有名なレストランなんて行けないですよね。でも、僕たちがサービスをするお客様は、毎日どこかで2万円3万円普通に使っている方々なわけですよ。 無意識に他のお店と比べられてしまう中で、自分たちが他を知らないと、何にも気付けないでしょう。若い頃こそ、自分にどれだけ投資できるかがめちゃめちゃ大事なんです。

ヒカルさん

「お金がないからできない」はよく聞く言葉ではありますね。

Kiyotoさん

僕がご馳走しても駄目で、自分のお金で行かないと意味がない。時には「なんだよ今日これで2万円かよ!」って時もある。もっと違う使い方すればよかった! って悔しい思いを、僕もよくしました(笑)。でもそういう思いをして初めて気がつくんですよね。「このビール一杯1200円の価値はどこにあるんだろう」と。そう考えてはじめて、その人はグラスをピカピカに磨くようになるし、ちゃんとビールサーバーを掃除するようになる。一杯のビールを、美味しく入れるようになるんです。

ヒカルさん

そこは確かに、自分で経験しないとわからないですよね。

Kiyotoさん

良いものには、絶対に理由があるじゃないですか。流行っているお店の表面だけ見ても何も学べないですよ。

ヒカルさん

言い訳に頼って何もしなくなってしまうのは、もったいないですよね。

Kiyotoさん

行く気がないだけなんですよね。休みの日にバイトをしてでも勉強しに行きたい、そこまでやるモチベーションを持たせてあげないと。そこまでして手に入れた1万5000円なら、「どうやって使おう?」 って一生懸命考えますよね。

ヒカルさん

自分への「投資」としてお金を使う感覚って、大切ですよね。

Kiyotoさん

ちゃんと「投資」にできるように口すっぱく言うんです、「タダで帰ってくるなよ」と。5万円払うなら、僕だったら絶対に同額の価値を取り戻したい。 たとえば予約が取れない人気店を希望日に予約できるような人間関係も、1つの価値ですよね。サービスマンとしてリターンのある投資にしたいから、すごく考える。

ヒカルさん

必ず得るものを持って帰ってくるということですか…。それがサービスマンとして細やかな気づきにもつながるということですか。

Kiyotoさん

ただ行って、時間を過ごしただけでは勉強したことにならないんです。「投資」だと勘違いしている「浪費」が一番よくない。お金がない子たちは余計に、そのお金をどう使うか? を考え抜いて欲しいんです。

見るもの全てを吸収するくらい貪欲に、ということなんですね。

Kiyotoさん

感動を体験すると、なかなか忘れられないんですよ。とある有名ホテルに、大物芸能人でもファンがいるような有名なベルボーイがいるんです。昔、妻と海外旅行に行く時に、リムジンバスに乗るためにタクシーでそのホテルまで行ったんですよね。降りたらすっとこちらに来て、「萩原様、空港行きのバスはあちらです」と話しかけてくるわけですよ。

僕のスーツケースに萩原ってタグがついているのを見て、すぐリムジンバスの担当に予約を確認したんでしょうね。「ハワイ便まで1時間ありますので、よかったらあちらでコーヒーも飲めますし」なんて声をかけられたら、これはコーヒー飲むしかないじゃないですか。本当のプロはたった一つの情報からここまでできるんだって感動ですよ。

ヒカルさん

すごすぎますね…思考が違うというか、見ている世界が違いますよね。

Kiyotoさん

この気付きこそが、サービスの世界でめちゃくちゃ大事なことなんですよね。

業界イメージを変えるのは誰か?

業界を変えていくためにご尽力されているお2人にとって、覚悟が決まるような出来事はあったのでしょうか?

Kiyotoさん

2年ほど前かな、「飲食業界は給料が安くて拘束時間が長い。それを変えたい」って尊敬する経営者に相談したら、「自分が好きで誇りを持ってその仕事をしているんだろう。マイナスな言葉から入るやつの話なんて俺は聞きたくない」と言われたんですよね。

ヒカルさん

それは耳が痛い話ですね…。

Kiyotoさん

プロのアーティストがコンサートで「今日喉が痛いんですけど、一生懸命やります。」とは言わないでしょって。喉が潰れてもいいから一番得意な曲で心を掴みにいくよね、と。それがプロじゃないの? って話だったんですよね。

ヒカルさん

なるほど…。

Kiyotoさん

本当に業界を変えたいなら「この業界は最高だよ!」「誰にも真似できないよ、見てくれ!」 というアプローチじゃないと世の中の人の心は動かない。それなら、こんなに素晴らしいんだよというところを見せながら「でも! ここは至らないから変えていきたい。」そう伝えていくべきなんだなと思ったんです。

ヒカルさん

自分たちの業界が好きだから、変えたい。まずは僕たちが楽しんでいることを、先に知ってもらうということですね。

Kiyotoさん

SNSを日頃から見せてもらっていますが、ヒカル社長はもう実践されていますよね。どうされるんですか? これからのビジョンは。

ヒカルさん

新人の頃から変わらず「歌舞伎町を変えたい」が目標で、group BJの「人間性を育てる教育」は、それができると信じているんです。 最近いろいろな方とお話をする中で、僕らがこの10年やってきたことは他の業界でも通用するのかもしれないと思い始めたところです。歌舞伎町にいる子は特にですけど、しっかりした教育を受けるチャンスがなかった子たちを救える組織になれるんじゃないかなって。それが、日本を変える事になるんじゃないかなと思っています。

Kiyotoさん

素晴らしいですね。

ヒカルさん

言っているだけで、自分ができているのはまだ小さな場所だけなんですけどね。Kiyotoさんはどうですか?

Kiyotoさん

幼児教育や小・中学生くらいの子供たちへの教育って、究極の仕事だと思うんですよね。僕も将来的にそこに貢献できればいいなと思っています。人間性を育てるって本当に大切なことですから。今はかなり穏やかになりましたけど、それこそ20代の頃とかは僕のせいで30人近く辞めましたからね。こんなに辞めさせてたら損失だって、ある時から気が付いて。

ヒカルさん

僕も同じ経験をしました。辞めていく理由が自分のせいだってわかるまでは、言葉が止まらなかったですね。

Kiyotoさん

「今すぐ帰れ!」ってね。途中で気がつくんですよね、自分が足りなかったんだって。今は深く反省申し上げております(笑)。

ヒカルさん

(笑)

Kiyotoさん

でも、目の前の子の成長のためにって気持ちはあるじゃないですか。僕も最近気づきましたけど、自分で気がつくことが本当に重要。自分で悩んで、もがいて気がつくことで、一皮むける必要性は絶対にある。僕たちができることは、気付かせる環境を与えてあげることくらいしかないんじゃないかなって。

ヒカルさん

そうですね。気付けない環境だったら、何年いても無駄ですもんね。

Kiyotoさん

今日お話を聞いていて、スタッフをホスト業界に弟子入りさせたくなりました。お昼とかやらないんですか?(笑)若者教育機関みたいな。将来的に歌舞伎町にそういう学校があったら、いいなあと。

それはどの年代の方でも、勉強になりそうですよね。

Kiyotoさん

僕は怖くて行けないですけどね(笑)。厳しそうだしすごいだろうなって。もちろんいい意味ですよ!

ヒカルさん

お昼ですか、考えてみます(笑)。その際にはぜひ、講師としていらしてくださいね!

<編集後記>

「サービス」と言うとそれを職とする人だけに必要なものと思いがちですが、人付き合いにおける「心遣い」だと言い換えれば、誰にでも必要なスキルです。お2人のお話をお聞きして、この心遣いを持った人に育てることは、並大抵なことではない、底知れぬ愛情が必要なのだと感じました。

「業界を変える」同じ軸をもつお2人のこれからは、「変えたいけど何もできない」方たちに、大きな勇気と刺激を与えていくのだろうなと、感じてやみません。


取材・執筆 柴田佐世子(https://twitter.com/saayoo345)
編集 高下真美(https://twitter.com/t_mami134)
   柴山由香(https://twitter.com/yuka_lab12)
撮影 越河はるか(https://twitter.com/koshikawaharuka)




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