〈なつよ × 一条ヒカル〉ホストはホワイト企業へ、従業員やお客様への超メンタリング術 |後編|

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歌舞伎町で名を馳せた一条ヒカルさんがホスト業で学んだ仕事の流儀は、他のビジネスにも通ずるのか? 他のビジネスにも活かせる法則を、現在活躍中のビジネスパーソンと対談形式で見つけていく本シリーズ。第四回目のゲストは海外事業プロデューサー​陳暁 夏代(以下:なつよ)さんです。

前編では「イメージや偏見を脱ぎ捨てる方法」をテーマに、新しいホストクラブの見せ方についてたくさんのアイディアが飛び出しました。

後編では、「お金をいただく」感覚を養う人材育成について聞いていきます。

group BJは出戻りOKなホワイト企業!

なつよさんはフリーランス、企業勤め、経営者へと働き方を次々変えられていますが、ホスト業界でも転職はあるのでしょうか?

ヒカルさん

お店を変えることはよくありますよ! そのための引き抜きも多いです。

なつよさん

その時ってそれまで働いていた会社にお伺いを立てることはあるんですか?

ヒカルさん

いえ、突然「辞めます。」と去っていって、次の月から他のお店で働いている、なんてことはざらにあります(笑)。

なつよさん

それって元居たお店に怒られたりしないんですか?

ヒカルさん

お店の幹部同士で揉めているという話はたまに聞きますけど、僕らは引き抜きを一切やっていないんで、実際のところはあまりわからないんです。

陳暁 夏代(ちんしょう・なつよ)さん

​​日本と中国の背景を持ち、2009年よりフリーで企業のコンサルティングやファッションイベントの企画運営などの活動を行う。

2013年から東京の広告代理店に勤め、企業のブランディングから商品の販売促進までを担当。

2017年には日中両方の起業課題解決・進出支援をする、コンサルティング事業をスタート。日中双方のリアルタイムな変化をキャッチアップし、ブランディングや若年層マーケティングを多く手がけている。​2019年よりコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.に参加。

一条ヒカル(辻貴人)さん
1987年、富山県生まれ。
歌舞伎町ホスト2万5000人のトップでgroup BJの幹部。年間最高売上1億5000万円、4年連続で年間売上1億円突破。

歌舞伎町でホストクラブ3店舗を経営する経営者でもある。AbemaTVの『株式会社ニシノコンサル

なつよさん

そうなんですか! 私の居る業界的には、引き抜きは基本タブーといわれているので、進んでますね。

ヒカルさん

引き抜きをしないというよりは、できなかったという方が正しいかも。10年前は1店舗だけで有名なホストも全然いなかったのでなかなか経験者が来てくれなくて。だから僕らは逆に未経験者に特化して、この職業の経験値は全くない、どんな子でも売れる教育というところに力を入れ始めたんです。実際やってみると未経験のスタッフだけでもなんとかなるので、個人で強い人が抜けても会社はぶれないですね。

なつよさん

それすごいですよね。

ヒカルさん

会社としてはそっちの方がいいのかなって。個人としては、自分の能力を最大限に発揮できる場所がもちろんいいと思うんですけど。歌舞伎町の中でもこのやり方はうちのグループだけですね。

なつよさん

勝手なイメージですけど、ここ(group BJ)の離職率低そうですね。

ヒカルさん

残念ながら、低いとは言えないんですよ。でも、誰にも相談せず無断でいなくなっちゃう“飛び”と呼ばれる辞め方はないです。歌舞伎町では結構多いんですけどね。辞める時は、しっかり僕と話をして辞めていきます。その子がやり切っていないなと感じる時は引き止めることもありますけど、辞めたいのであれば基本的に辞められるようにしています。でも、出戻りも多いと思いますよ。

なつよさん

それはどういう理由で戻ってくるんですか?

ヒカルさん

「辞めた当時は人間としても子供でいろいろ理解できなかったけど、やっぱりやり切れなかったからもう一度チャレンジしたい」と。調子悪い時って、今いる自分の空間が合っているのか、迷ったりするじゃないですか。

なつよさん

はい。

ヒカルさん

そういう時に道を変えても、間違っている場合が多いと思うんですよね。昼間の社会に戻った時にいろいろなものを見て「あの時は恵まれていたな」とか「ヒカル社長には、いいことを教わったな」と気が付いてくれた子は帰って来てくれています。

なつよさん

うんうん。「調子悪い時に選ぶ道 間違えている説」はめちゃくちゃ分かります。仕事も大体そうですね。そういう時はどうすればいいですか?

ヒカルさん

一旦「ステイ」です。「ここの環境じゃないんだ」って道を変えたけど、実は周りの環境に恵まれていたって気がつくことはよくあるじゃないですか。調子悪い時って足が重たいしがんばろうとしても病んでしまう。だから今の自分でできることをやりながらステイです。

なつよさん

道が開けるまで。

ヒカルさん

そう。1カ月2カ月経ったら、見えてくることは多いので。調子悪い時にどうするかで、成功に近づけるかどうかがわかると思うんですよね。

なつよさん

うん。

ヒカルさん

焦ると思うけど、地道なことでいいんです。コツコツLINEの件数増やしたり、調子悪い時こそコツコツと“もう一歩”動ける人が上がってくる。

なつよさん

なるほど。

ヒカルさん

ただ、人間そんな強い人ばっかりではないので、同じ言葉を逃げ道として使う時もあります。

なつよさん

なんか一条さんって「人事」ですよね。

ヒカルさん

人事?

なつよさん

ホワイト企業の人事ですよ。すごい! 面白い!

ヒカルさん

本当ですか?

なつよさん

企業講演とか、めちゃくちゃ需要あると思います。CAがよくマナー講師に転職するじゃないですか。ホストクラブの方もそういう道とか、その後のキャリアがあるとめちゃくちゃいいと思います。キャバクラとかホストって対人サービス業の究極形だと思うので、表舞台に出てこないのもったいないと思います。

ヒカルさん

出ていけなかったというのもありますね。

なつよさん

けど変わってきましたよね。この間のきゃりーぱみゅぱみゅさんの投稿、めちゃくちゃいいなと思いました。『どんな世界でもNo.1の人は魅力的』っていう、偏見を持たれがちな業界全てに対するポジティブなツイートでしたよね。

ヒカルさん

そうなんです!「僕らは何も恥ずかしいことをしていないのだから、周りからの目を変えたい。」って話はさせてもらっていました。でもまさかツイートしていただけるとは思いませんでしたよ。彼女の影響が大きい分、批判も多かったみたいですけどね。

なつよさん

女性アイドルということが、関係しているんでしょうね。

ヒカルさん

はい。でも「リーチかけてもらった」という感覚はあります。さらに多くの人に知ってもらうきっかけにも、なりましたしね。

ヒモになったらダメ!group BJの教育信念

業界の見え方が少しずつ変わってくると、働く方々にもさらに注目が集まりそうですよね。

ヒカルさん

そうなんです。「ホストは色恋営業」というこれまでのイメージを変えるためには、まずはヒモ気質を辞めさせなきゃいけない。「ビジネスとしてお金もらっている」という感覚を持たず「女の子に貢がせる」という感覚だと、単なるヒモじゃないですか。業界用語で一本釣りといって、1人のお客様から大きな売上をいただく方法があるんですけど、うちでは絶対にダメです。

ホストという仕事は「不特定多数のお客様に支持を得る人気商売」。自分を指名してくれるお客様は今の自分が好きだから、嫌われない努力だけをすればいい。でもその女の子達で毎月1千万は売れないですよね。「自分に振り向いてくれない層をいかに振り向かせるか」が人気商売の腕の見せ所なんです。

甘えても許してくれる存在にばかり頼っていたらヒモになるんですよ。男としての成長がなくなる。

なつよさん

なるほど!

ヒカルさん

お客さんの家で寝泊まりして、遅刻しそうなら同伴してもらい、その子だけに時間を使って、お金を使ってもらう。こういうホストが歌舞伎町って本当に多いんですよ!何千万と売り上げがあったのに、独立して上手くいかない人が多いのは、ヒモ気質が強いからなんですよ。

なつよさん

そうか、太客(ふときゃく:多額のお金を使ってくれるお客様)に頼っちゃうんですね。

ヒカルさん

そういう人達って、ホスト以外の例えば撮影の仕事でも遅刻して来たりします。そういう行動で、「常連のお客様に甘えてるんだな」ってわかりますね。

なつよさん

へええ。

ヒカルさん

でも次々にお客様を生み出す努力をする人って、自分改革が止まらないんですよね。だからまず、入店の時に話すんです。「改革を止めずに成功できたら、経営もできるようになる」って。最初からヒモ気質にならないような教育をしていますね。

なつよさん

すごい!(拍手!)勉強になる! それ、フリーランスをやっている人とか、独立して会社を作った子も皆一緒ですね。現状の売り上げが大きいお客様に頼って新規開拓をしなければ、あっという間に売上が止まるので。私たちの業界も一緒だと思います。

ホストとお客様のメンターな関係

なつよさん

一条さんはこの業界で何年目なんですか?

ヒカルさん

group BJ一筋で、今年で10年ですね。ホストクラブは働く前に体験入店というのができるんですけど、それもここだけです。

なつよさん

勝手なイメージですけど、私の中で「一条ヒカルはホスト界のイメージ改革者」なんですよね。裏方に回るというか、リーダー側に寄っていっている気がするんです。

ヒカルさん

めちゃくちゃ嬉しいです。一応頑張って現役感出しているんですけど、僕の売上は今100万円もないんですよ。

なつよさん

もう完全に経営側なんですね。

ヒカルさん

はい。お客様も1人2人いるかみたいな感じ。全然相手をしてあげられないのにいまだに来てくれるので「すごい物好きだね。」って言っています(笑)。すごく良い方達です。

出会った頃は学生だったお客様が看護師になって、初任給をもらった時のLINEが面白くて。「ヒカル美容師やってた時の初任給いくらだった?」って聞かれて「10万円くらいだったよ」って返したら、「私、こんなに死ぬほど働いて給料10万500円だったんだけど!」て愚痴聞かされました(笑)。

なつよさん

10万500円! 大変ですね。

ヒカルさん

「ようこそ社会へ」って送っておきました(笑)。

ちょっとお父さんみたいですね(笑)。

なつよさん

本当! なんか思っていた関係じゃない! 家族みたいな距離感ですね。

ヒカルさん

その子の場合は小さい頃から親父さんがいなかったこともあって、大人からアドバイスもらうっていう経験がなかったんですよね。そういう意味では僕のことを重宝してくれていたのかも。1人ひとりと結構踏み込んだ話もするので、こんな関係も割と珍しくはないんですよ。

なつよさん

なるほどなぁ。私もそれこそ自分で事業を始めてから、相談できる人が全然いないなって思うんですよ。自分の悩みをわかってくれる人って同業者か、まったく違う業界で自分がリスペクトしている人のどっちかしかなくて、後者ってすごい貴重。前者だと自分と相手との釣り合う瞬間が交わらなくて。後者って心のメンターというか、そういう存在はすごい貴重だと思います。

ヒカルさん

メンターか、そう呼ばれるのは一番嬉しいですね。僕らはお金を払って頂いてるいるので、そのポジションをできなければむしろ失格ですよね。かつて僕に1億円以上使ってくれたお客様は、なにかあるたびに電話して来ますよ。

なつよさん

へぇ〜っそうなんですか!

ヒカルさん

今はもうお店に来ることはないですけど、活躍を見ていてくれるんですよね、「あの番組見たよ」とか。「今付き合っている彼がこうなんだけど…」みたいな相談の電話を夜中に聞いたりしてます。「また悪いくせ出てる! また男に嫌われるで!(笑)」とか言いながら。

なつよさん

なんか友達みたいですね(笑)。

ヒカルさん

1億円使っていただくって、その人の人生を背負う勢いじゃなきゃできないんですよ。でも結婚するとか、恋仲になるだけが最終的なゴールじゃない。彼女の恋愛を邪魔する気はないですし、家庭ができたらもちろん嬉しいですし。表には出ない「闇のメンター」みたいな(笑)。ホストという仕事がそういう存在になれたら、嬉しいですよね。


取材 越河はるか(https://twitter.com/koshikawaharuka)
編集・執筆 高下まみ(https://twitter.com/t_mami134)
・柴田佐世子(https://twitter.com/saayoo345)
撮影 池田実加(https://twitter.com/mikaikeda6)

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