【「まぐれで売れる」はありえない】人間力から育てる次世代の歌舞伎町教育論【一条ヒカルのヒカル通信】
horeru.com Premium Contents
group BJの一条ヒカル社長による対談企画「ヒカル通信」。今回は、個性派集団『Group Yggdrasill / グループ ユグドラシル』の会長、社 美緒(やしろ みお)さんをお招きします。
SNSやYouTubeを通じて、ホスト業界の文化を発信し続ける社さん。その若き経営者のプロデュースは、ホスト業界に限らず、他業種にも及んでいます。
有名プレイヤーから、教育者へ。 ホストとして10年以上の月日を過ごした歌舞伎町を愛し、本質的なホストのイメージチェンジを目指すお二人の対談を通じて、「人間力を身につける教育論」に迫ります。
「コスパが悪い」? 歌舞伎町変革に挑む有名ホストの正体
3年前、地上波のテレビ収録で一度共演経験があるというお二人。それ以来の再会とのことでしたが、顔を合わすなり「お美しい」「そっくりそのままお返しします」と、仲睦まじい挨拶を交わしていました。人気プレイヤーからグループを率いる存在へ……その立場は、ともに変化していました。
一条ヒカル:
僕はですね、この業界に入る前から経営者になりたくて、いつか自分のお店を持つための勉強だと思いながら、プレイヤーをしていました。毎月指名100本いただくことも、1000万プレイヤーであり続けることも、お店を出した時に「この人の店なら働きたい」と思ってもらうために、ですね。
社美緒:
そうだったんですか! お店で一番になりたい気持ちより、経営者になるための過程として、数字を上げながらお店を出す準備をされていたと。
ヒカル:
グループに所属するいいところって、会社の資金で経営の勉強ができるところなんですよ。入って2年かな、「店を任せる」と言ってもらえた時は、「いいの!?」ってなりましたもん。
美緒:
確かに、そうですね。
ヒカル:
お店を持つようになった3年目からは、同伴は一回もしていません。毎朝出勤して運営者と一緒に掃除して、閉店後は片付けをして。自分のタワーも、自分で片付けていましたからね(笑)。
美緒:
それはすごいですね(笑)。
ヒカル:
アフターも、従業員を帰してお金の締めをして鍵をかけたその後に向かう感じ。休みの日も、店外はほぼしない。
美緒:
「売れているホスト」って、積極的にアフターや店外をしてくれるマメなイメージがあるんですよね。それが売れている理由なんだって周りは思いがちですけど、ヒカルさんは違ったんですね。
ヒカル:
そうなんです。だから僕、「めっちゃコスパ悪い」って言われてました(笑)。
美緒:
僕もなんです! 指名できますかって聞いていただいても、「おすすめはできません」と返すくらい。優先タスクが従業員>女の子だったので、お店の中でも、申し訳ないけども丁寧に対応ができなかった。「富士山を見に来るつもりで来て」って言ってましたね(笑)
ヒカル:
それ、いいですね(笑)。今幹部として活躍する人材は、プレイヤー時代から経営への意識が高かった印象ですね。
でも、その仕事の仕方だから、お客さまから信頼を得られたとも思っているんです。本当にずっと仕事をしていたので、知らないうちに誰かと遊びに行くことも無いし、逆に安心できる担当だったのかもしれないですね。
美緒:
それ、わかります。お客さまが大人しく席に座っているホストには2つパターンがあって、「外でお客さまにめちゃめちゃ時間を使って尽くすタイプ」と、「お店と従業員のために頑張る姿がかっこいいから見に行きたいと思わせるタイプ」。
後者は、すごく出世する。やっていることがGive&Takeでも色恋でもないから、いっぱいファンがついて、指名の本数が増えるんですよね。
ヒカル:
ホストである前に、人として尊敬されるってことですよね。
美緒:
ホストクラブに出世や出店の細かいシステムがあるのは、お客さまとのつながりの中で本人が成長していく様が見えるようにです。それを理解しているホストはファンがつきやすいし、ヒカルさんはその典型ですよね。
ヒカル:
わー、そう言っていただけると嬉しい! 確かに、その感覚でしたね。応援してくださるお客さまとの時間をもつことはもちろん大事ですが、限界があるじゃないですか。
それよりも、一条ヒカルがどんどん格好よく進化していくことが恩返しだと思っているので、その想いは伝えましたね。「もっと格好よくなるから」と。
美緒:
「裏切らない」の定義は、「わがままを聞いて相手に尽くす」もありますけど、「してくれたことを無駄にしない」ってすごく大事だと僕も思います。ヒカルさんはそこにイケメンもついてくるから、反則ですよね(笑)。
目指しているのはカリスマか、変人か
プレイヤー時代から、「経営」を視野に入れてきたお二人。色の違うホストクラブ同士、意外と共通点が多いようですが、お互い教育で意識していることは、どのようなことなのでしょうか。
今、お二人とも教育に注力されていますが、その方針はどのようなものなのでしょうか。
美緒:
替えが利かないホストの育成です。ホストにはいろいろなタイプがいますが、究極「この人じゃなきゃだめだから」と言われるホストをプロデュースしたい。
ただでさえ厳しい歌舞伎町という街の中で、名前を売るために自分を作って、それを歌舞伎町に売って生き残っていけるホストを育てたくて。
ヒカル:
素晴らしいですね。Yggdrasillのホストさんは個性が強いので、確かに好きになったら替りのホストを探すのは大変そうです。
美緒:
同伴やアフターも、他のホストにできることをするなよと。「他の男とは体験したことがないことを、その子と作れよ」と伝えています。
ヒカル:
それがまさにホストの仕事ですよね。それ以外ない。「僕らは一般人になっちゃだめだよ」っていうのは、僕も最近一番伝えていることです。
ホストクラブって一回来るだけで2〜3万はかかりますし、下手したら有名アーティストさんのライブよりも、お金がかかるんですよ。
じゃあ、その価値を見いだしてもらうには普段どう生きていれば良いのか? という話で、普通の感覚で普通に暮らしていたら、その金額をもらえる人材にはなれないんです。凡人ではなく非凡にならなきゃいけない。
美緒:
1万円・10万円の価値が人によって違う中で、「それでもこの人に100万円払いたい」と思われる人になるしか、僕らには道がないんですよね。
ヒカル:
非凡になるには、まず凡を重ねることが大事。うちのグループではゴミのポイ捨てをしないとか、当たり前のことから取り組んでもらうんですけど、当たり前のことを当たり前にできるようになって初めて、人前でちょっと強気な発言ができると思うんです。
美緒:
「君のイメージだとホストってこんなもんかもしれないけど、俺は違うよ」って言い切れるかどうかって、「人間力教育」だと思うんですよね。
男性として「欲しい」と思われるためには、他の人よりも当たり前のことができてやっとスタートライン。当たり前のことができない奇抜な奴は変人です。当たり前のことができた上で変わったことをできる奴が、「カリスマ」と呼ばれると思っています。
お金を稼ぐのに必要なのは、要領じゃない
「ホスト育成」の前に「人間教育」を重視されているお二人ですが、そもそも採用時に重視されることはありますか。
美緒:
僕に憧れて、僕に会いたくて来た子たちは、全員面接で落とします。「社美緒のために働く」がNGです。
ヒカル:
これは……Yggdrasillに入りたいと思っている方! 絶対言っちゃダメですよ!
美緒:
自分でホストとして何がしたいのか、ユグドラシルで何を学ぶのか、自分のキャラクターがフィットするかどうかを理解できていない子は、どの道僕がケアをしないと頑張れないと思うんです。
それって男として違う。場は用意しておくから「自分のために頑張るんだよ」と。このスタンスを理解できないなら、採用しないです。
ヒカル:
美緒さんの教育論を盗みたい、経営術を学びたいんですって明確であれば、「やる気あるんだ」って伝わりますね。
美緒:
ファンみたいな子は、SNSで発信する綺麗な部分だけを拾っちゃうので、現実が見えた時にきつくなっちゃうんですよ。
ヒカル:
現実を伝える。僕も、面談で一番大事にしていることですね。
僕の店には未経験で入って3ヵ月で売り上げが1000万円を突破した子もいるので、「俺もできる!」と意気込んで来てくれるのはすごく嬉しいんですけど、よくよく話してみると「学生で…」とか、「寮は嫌で、通いがよくて…」と要望が出てくる。
「学生だったら、こういう現実が待っているよ」「通いでやりたいって、そもそも考え方が違うよ」と、その場で答えます。
ホストが最初はどれだけ泥臭い仕事で大変かっていうのを知らずに来るから、それを伝えてあげるのが最初の仕事ですね。
美緒:
業界に入る最初に伝えるって、大事ですよね。
ヒカル:
片足を突っ込む気で来た人は、やっぱり難しい。「 “ホストだから” 売れなかったらどうしよう」、「 “夜の仕事だから” 将来が不安だな」。自分で何もせず、いつも言い訳を持つ人は、結局いろいろなことを中途半端にするから。
美緒:
僕は「掛け算だよ」って、よく言います。たとえ顔が100点でも、女の子に対する経験値が100点でも、気持ちが0点だったら掛け算で0点だからって。
今は副業とかも一般的になりましたけど、自分の仕事で1番になってから他のことをやれって思いますね。要領良くやってお金を稼ごうと考える人が意外といるんですけど、そんなこと絶対にない。
正直、今まで本気でやってきたことが、ようやく返ってきたくらいの感覚じゃないですかね、上にいく人って。
ヒカル:
お金を稼ぐのに、要領なんてないです。
ひと昔前は、地元でモテれば歌舞伎町でもそこそこ稼げるみたいなラッキーなことも起きてたんですよ。至らない部分があっても、SNSが今ほど活性化していないから、バレなかった。
今はなんでも発信されてしまうから、外見やトークスキルといったホストの基本的なスキルにプラスして、生き方や将来どうなるんだろうという期待値って必須になってくると思うんですよね。
美緒:
良いところまでいったのに、足を踏み外しちゃう子たちは、そこなのかなと思いますよね。
ヒカル:
大体みんな踏み外しますけどね(笑)。
美緒:
そしてそれは僕らのせいにされるという…。「あんたの店、教育どうなってるの!」って(笑)。
ヒカル:
例えばここに穴があったとして、「絶対にふむなよ!」って教えて全員がちゃんと避ける教育者なんて、いないと思うんですよ。それができたら神様だと思う。でも、言っておいてあげるのが大事なんです。
美緒:
落ちて、「ほら言ったでしょ」の繰り返しですよね。
ヒカル:
「だからこうしていこうね」って言ってあげるのが、一番の教育。ちゃんと自分で身をもって経験して、反省させる。「反省してもらえるか」が教育なのかなって。
美緒:
そうですね。そもそも「何度かは間違える」と思って、その尻拭いをする覚悟を持たなければいけない。
ヒカル:
落とし穴に落ちたことを本人のせいにして、「ほら、言ったじゃん」ってマウントを取る教育者は、違うんですよね。落ちることさえも、知っておいてあげなきゃいけない。
どうフォローするかまで考えて、落ちた後にさっと穴から出てきやすくしてあげる方法を考えることが、僕たちの役割です。
来るべき、「自分たちの時代」のために
現在、お二人はグループの顔としてYouTubeやSNSを使い、ホストという仕事を広く発信しています。人材を育て、文化を届ける……その行動の先には、どんな未来を描いているのでしょうか。
ヒカル:
プレイヤーで有名になった人がお店を出すとつぶすっていうジンクスがありますよね。僕、それがすごく悔しくて。最初お店を出した時も「失敗すると思われているだろうな」って感じていましたもん。
美緒:
同業者を攻撃する人がお店を持つとうまくいかないイメージはありますけど、ヒカルさんにはそういう印象が全くなかったですね。
ヒカル:
僕、ホストクラブ……というか歌舞伎町で働いている人全員が大好きなんです。癖がある子もヤンチャな子も真面目な子も偏りなく、この場所にいるってだけで勝手に親近感が湧いちゃうんですよね。
美緒:
歌舞伎町って一つの家ですからね。もう本当に、僕もそんな感じで歌舞伎町にいます。
ご自身の店舗の教育だけではなく、外にも広く発信されている理由は、歌舞伎町が好きだからという理由が大きいのでしょうか?
美緒:
ホストクラブというものを知らない人たちに、まずは知ってもらいたいんです。
僕がホストクラブにできる恩返しって、ホストという仕事を底上げすることだと思っていて。ホスト同士が共食いして、歌舞伎町にいる女の子や従業員を取り合うのってすごく疲れるし、誰かがいなくなっちゃうだけで嫌なんです。
ヒカル:
そうですね。
美緒:
だったら、もっとホストという需要を外から作ってしまった方が、最終的にみんながハッピーじゃないですか。ホストという絶対のパイを増やして、噛み合うところ同士で仲良く回していくのが良いなと思っていて。
だから、YouTubeで『ヤシロメシ』という企画を始めました。さまざまなホストをゲストに呼んで、「このグループはこう」「こっちのグループはこう」って、文化をちゃんと引き出して表に出していきたい。
将来的に自分たちが歌舞伎町を引っ張る年代になったときの準備だと思って、始めたところなんですよね。
ヒカル:
めちゃめちゃ素敵ですね。ホストクラブ同士混じり合う必要はなくて、それぞれのやり方、正解があるから、その組織はその組織で楽しければ良いんですよね。歌舞伎町って一つの世界にいろいろな国がある、そんな感じ。
美緒:
皆さんから見たらホストクラブA・Bかもしれないですけど、僕らの感覚だと「あっちはアメリカ」「あっちはロシア」くらいに、文化が違いますからね。
ヒカル:
最近よくなったなと思うことが一つあって、自分がNo.1になりたいのと同じくらい、グループそのものを大きくしたいって頑張ってくれる子が多いんですよ。それがみんな楽しそうで。
美緒:
グループの文化に染まれているからこそ、ブレない人が生まれるんですよね。やっぱり僕、浅く広く作ったブランディングって、人は離れていっちゃうと思うんです。
ヒカル:
入店前に「うちはこういう理念で、こういうお店を作りたい」・「歌舞伎町をこうしたい」ってちゃんと話すことが大事で、そこに共感ができないならそもそも取らないですしね。
だって、女性をナメていたり「どうせ俺のこと好きだから許してくれる」っていう感覚の子は、絶対に売れないですから。
美緒:
歌舞伎町に憧れを抱くほど、「あそこにいけば」と期待を持ってしまいますけど、そうじゃない。
それこそお店を持ったばかりの頃は、どんどんお客様と会ってる姿を見せていました。「美緒さんここまでやっているんですか!? 価値下がりません!?」と言われても、「他の人はもっとやっているから」って答えていたなと。
ヒカル:
この街は、毎日学ぶことだらけですね。教育も経営も、すべて歌舞伎町で学んだと言っても過言じゃない。
ホストとしての「究極の尽くし」を、言葉と背中で見せる。プレイヤーとして人気になることと、トップとしての活躍は別物なので、今ちょうどうちでも代表職をやっている子はまさにこの壁に直面していたりするかもしれないけど、今なら教えてあげられます。
美緒:
自分たちも、ちょっと肩の力を抜くと、意外と楽になったりしますよね。教育者がずっと一番前に居てしまうと、自分の代わりに背負って引っ張れる人間って育たないんだよっていう。みんなのためにいきなり後ろに行くって、なかなか難しいですけど、そういう部分も見せながら、育てていけたらいいですね。
でもなんというか、社長になっちゃうとホストくんたちと距離感が開くじゃないですか。結構一人になることも多くないですか?
ヒカル:
孤独……社長は意外と孤独です(笑)。
美緒:
ですよね。ヒカルさん、ぜひ今度「ヤシロメシ」行きましょう。
ヒカル:
ぜひ!
<お知らせ>
group BJ ONE’S CREATION 4店舗の求人募集再開!
詳しくは一条ヒカルさんのTwitterをチェック!
Yggdrasill & Norn 130坪拡大移転オープン!
路面専用入り口と看板を持つ大型店舗に生まれ変わりました! 詳しくは、社美緒さんのTwitterをチェック!
取材協力:合同会社 LA BOUSSOLE
取材・編集・執筆 柴田佐世子
撮影 池田実加
バナー制作 小野寺美穂
監修 柴山由香
まずはお二人のプレイヤー時代のお話から聞いてもよろしいでしょうか。